ピロプラズマはアピコンプレックス門に属し、主に哺乳動物の赤血球に寄生する単細胞真核生物の一群である。マダニ類によって媒介される家畜の病原体として警戒されているが、人間に対しても日和見感染を起こすことがある。感染した宿主動物は、貧血、黄疸、発熱、血尿などマラリアに似た症状を示し、死亡に至ることも多い。ピロプラズマという名は細胞が赤血球中で梨形(pirum 梨 + plasm 形)に観察されることに由来する。分類学上はピロプラズマ目(Piroplasmida)をあてる。
アピコンプレックス門無コノイド綱ピロプラズマ目[1]。伝統的に大型のバベシア科と小型のタイレリア科に2分するが、これは生物の系統を反映していない。またBabesia属やTheileria属は多系統的であることが明らかになっている。以下に病原体として重視されている種を例示する。
古くは原生動物門胞子虫綱血虫目に分類されていた。ごく初期にはAnaplasma属や近縁の諸属をピロプラズマに含めていたが、これらはリケッチア目に属する細菌であることがわかって取り除かれた。またDactylosomatidae科はコクシジウム類の中のアデレア亜目に移された。
ピロプラズマは吸血性節足動物に媒介され、赤血球に寄生してこれを破壊し、宿主に発熱と貧血を引き起こすという類似点から、1950年頃までは広義の住血胞子虫と考えられていた。しかし明確な有性生殖が認められず、特に「胞子」に相当する形態(オーシスト、oocyst)を一切とらない点で、住血胞子虫と区別されるようになった[3]。胞子虫が解体される傾向の元でピロプラズマも全く系統の異なる生物だと考えることが多くなり、1964年の合意体系では肉質虫の中に移されているほどである[4]。しかし電子顕微鏡観察によってアピカルコンプレックスという共通の細胞構造が見出されると、ピロプラズマと住血胞子虫は無性世代においてコノイドを欠くという共通点で無コノイド綱にまとめられた[5]。