ウツボグサ(靫草、学名:Prunella vulgaris L. subsp. asiatica (Nakai) H.Hara)は、シソ科ウツボグサ属の多年生の一種。
東アジア温帯域に分布する多年生草本。各地の低山、野原や丘陵の道端など、日当たりのよい山野の草地に群生する[1][2]。匍匐性で、茎は4月頃に地表を這うように伸ばしてから、高さが10–30 cmに直立またはやや斜めに立ち、断面が四角形である[2]。茎葉は対生し、披針形、全体に細かい毛が密生し、シソ科植物に見られる特有の芳香はない[3][2]。花期は5–7月頃で、茎の先端に3–8 cmの角ばった花穂をつけ、紫色の唇形花を密集して穂の下から上へと順に咲かせる[1][2]。花が終わると、夏には花穂は暗褐色に変化し、一見枯れたように見えるところから、別名を夏枯草(かごそう)ともよばれる[1][4]。そして、根元から茎が出て地面を這い、その先に苗ができる[2]。花が終わって花穂が乾燥すると、萼筒の中に4個の種子があるのが落ちる[2]。
近縁の日本固有種に高山性のタテヤマウツボグサ(立山靫草、学名:Prunella prunelliformis (Maxim.) Makino)がある。
和名は、円筒形の花穂の形が、武士が弓矢を入れて背中に背負った道具である靫(うつぼ)に似ていることに由来する[3][4][5]。日本の地方によっては、アブラグサ、クスリグサともよばれる[4]。中国植物名は、日本夏枯草(にほんかごそう)[4]。
繁殖は、春に種子を床蒔きして実生、または株分けで行なわれる[2]。日当たりの良いところで育生させないと花がつかない[2]。
花穂は6–8月の花が終わる枯れかかった頃に採集して、天日干しにしたものを夏枯草(カゴソウ)といい日本薬局方にある生薬である[1][4][6]。主に中国、韓国で生産される。花穂にはウルソール酸(精油)、プルネリン(配糖体)、その他多量の塩化カリウム(無機塩類)、タンニンなどを含んでいる[1]。塩化カリウムなどの無機塩類は体内の尿の出を良くする利尿作用があり、カリウムには体内の塩分(ナトリウム)を出させる作用がある。タンニンには消炎作用と組織細胞を引き締める収斂(しゅうれん)作用があり、全体として消炎や利尿薬として用いられる[1]。
腎炎、膀胱炎、脚気などでむくみがあるときに、夏枯草5–10 gを400–600 ccの水で半量になるまで煎じ、1日3回に分けて服用することで、尿の出を良くし、むくみの軽減や治りを早めるのに役立つとされる[1][2]。患部の熱をとる力があり、膀胱炎で下腹部が温かく感じる人や、甲状腺腫やリンパ腺結核、目の充血や痛みで熱感がある人にはよいとされる[4]。ただし、患部が冷たいときや冷え性、妊婦への服用は禁じられている[4]。
また、口内炎、口内のはれもの、のどの痛み、扁桃炎にも使用され、前記の煎液で1日数回にわけてうがいすることによって、タンニンの作用で腫れや痛みの緩和に役立つ[1][2][7]。
中国では、夏の暑気払いにお茶代わりに夏枯草を用いており、水分の補給と利尿により疲労回復を促すものとして考えられている[1]。 ヨーロッパにおいても民間薬に利用され、ウツボグサ及びタイリンウツボグサ(P. grandiflora Jacq.)を肺病や胃腸の病に用いた。
日本ではハーブティとして用いられ、また、止血作用と治癒促進作用があるとされ、外傷薬として古くから利用されてきた。強壮剤、うがい薬としても用いられる。ヨーロッパでは、セルフヒールという名で知られる。