マダコ(真蛸、Octopus vulgaris) は、タコ目・マダコ科に属するタコの一種。世界各地の熱帯・温帯海域に広く分布し、日本では一般にタコといえば本種を指すことが多い。
腕を含めた体長は約60cmで、腕は胴体(いわゆる「頭」)の約3倍の長さだが、体はしなやかである程度伸縮する。体表は低い突起が密生し、さらに皮膚には色素細胞がくまなく分布する。周囲の環境に合わせて体色や突起の長さを数秒ほどで変えることができ、岩石や海藻によく擬態する。無脊椎動物の中では特に知能の高い種だと考えられている[1]。
浅い海の岩礁やサンゴ礁に生息するが、外洋に面した海域に多く、内湾には少ない。真水を嫌い、汽水域には生息しない。昼は海底の岩穴や岩の割れ目にひそみ、夜に活動して甲殻類や二枚貝を食べる。腕で獲物を絡め捕り、毒性を含む唾液を注入して獲物を麻痺させ、腕の吸盤で硬い殻もこじ開けて食べてしまう。ヒトに対してもかなりの毒性を発揮し、咬まれた場合相当な期間、痛みが続くことがある。
天敵は人間の他にも海鳥、ウツボ、沿岸性のサメ、エイなどがいる。危険を感じると墨を吐き、敵の視覚や嗅覚をくらませる。腕を自切することもでき、欠けた腕はしばらくすると元通りに再生する[1]。
繁殖期は春から初夏で、交尾したメスは岩陰に潜み、長径2.5mmほどの楕円形の卵を数万-十数万個も産む。マダコの卵は房状にかたまり、フジの花のように見えることから海藤花(かいとうげ)とも呼ばれる。メスは孵化するまで餌を摂らずに卵の下に留まり、漏斗で海水を吹きつけたり、卵を狙う魚などを追い払ったりして卵の世話をする。卵は1ヶ月ほどで孵化するが、メスは孵化を見届けた直後にほとんど死んでしまう。
孵化直後の子ダコは体はほぼ透明で、胴体部分が体の大部分を占めるが、体には色素胞があり、腕に吸盤もある。子ダコは海流に乗って分布を広げるが、この間に多くが他の生物に捕食される。
海底に定着した後は2-3年ほどで急激に成長し、繁殖して寿命を終える。
白いものを餌と認識するようで、ラッキョウを餌にして釣りをする。ミカンの栽培が盛んな地域では、海にミカンが落ちた時にそのミカンを食べている様子が確認されるという珍しいケースも見受けられた。
日本では重要な水産資源で、タコ類の中では最も産額が多い。瀬戸内海の兵庫県明石市沖でとれる「明石ダコ」[2]が珍重される。カニ等を餌とした釣りも行われるが、物陰に潜む習性を利用した「蛸壺」(たこつぼ)漁法が主流である。大阪湾沿岸の弥生時代の遺跡からも、蛸壺用と思われる土器が大量に発掘されており、古くから食用にされていたことが窺える。
塩で揉み洗いしてから茹でて、酢蛸、煮物、寿司種、燻製や干物、たこ焼きや明石焼きの具などにする。茹でずに生で刺身にしたり、薄切りにしてしゃぶしゃぶにしたりすることもある。
日本の需要は国産だけでは賄いきれず、近縁種がアフリカ大陸北西の大西洋岸諸国等などからも輸入されている。モロッコからの輸入は一時日本での消費量の4割を占めていたが、乱獲のため漁獲量が減少し、2003年から年あたり8ヶ月程度の禁漁規制が続けられている。モーリタニアも有力な輸出元である。
一方、タコは英語で「デビル・フィッシュ」(Devil fish= 悪魔の魚)と呼ばれることもあり、欧米で食用にするのは長らく南欧の一部地域に限られていた。イタリアやギリシャなど地中海沿岸や、スペイン北西部のガリシア州(ポルボ・ア・フェイラというタコ料理が有名)などである。近年はこうした南欧のタコ食文化が、観光客や移民を通じてヨーロッパの他地域やアメリカ合衆国にも広がりつつあり、国際市場での日本の商社などとの購買競争が激しくなっている[3]。
日本水産は2017年6月8日、マダコの完全養殖技術を構築したと発表した[4][5]。