テンジクダイ科(Apogonidae)は、スズキ目スズキ亜目に所属する魚類の分類群の一つ。2亜科23属で構成され、テンジクダイ・ネンブツダイなど沿岸付近に生息する海水魚を中心に273種が含まれる。
テンジクダイ科には273種が記載され、79科を擁するスズキ亜目の中でハタ科に次いで2番目に大きい科となっており、270種を含むニベ科がこれに続く[1]。太平洋・インド洋・大西洋など世界中の温暖な海に分布し、沿岸域の岩礁やサンゴ礁で暮らす仲間が多い。テンジクダイ属の一部が淡水・汽水域に進出するほか、Glossamia 属の9種はニューギニア島・オーストラリアに分布する純粋な淡水魚である。日本近海には、少なくとも15属86種が分布するとみられる[2]。
最大体長は20cmほどで、多くは10cm未満の小型魚類である。日本で底引き網によって漁獲されるテンジクダイ Apogon lineatus (Indian perch) やマトイシモチ A. carinatus (Ocellate cardinalfish) など[2]一部の種類を除き、食用として利用されることは少ない。マンジュウイシモチ Sphaeramia nematoptera、イトヒキテンジクダイ Zoramia leptacantha など、特徴的な体型・体色により観賞魚として知られる仲間もあるが、そのほとんどが、知られておらず地味な存在である。日本人の釣り人にとって馴染み深いネンブツダイはこの種に入る。
ほとんどの種類は夜行性である。親魚が受精卵を孵化するまで口にくわえて保護する、いわゆるマウスブルーダーの魚類が多い。卵の保護は雄が行うことが多いが、種類によっては雌が担当する場合もあると推測されている[1]。
テンジクダイ科魚類は一般に左右に平たく側扁し、種類によってはやや細長い体をもつ。背鰭は2つで、互いの間隔は離れている。第1背鰭は6-8本の棘条のみ、第2背鰭は1本の棘条と8-14本の軟条で構成される。クダリボウズギス亜科の Paxton 属のみ、例外的に連続した単一の背鰭をもつ。臀鰭の棘条は2本で、軟条は8-18本。鱗は櫛鱗であることが多いが、円鱗をもつグループもある。鰓条骨は7本で、椎骨は24個。
ヒカリイシモチ属の仲間は腹部に発光器官をもち、生物発光を行う。比較的深い海域に生息するテンジクダイ属の1種(Apogon gularis)は、肛門の位置が他の仲間とは異なり、腹鰭の基部のすぐ後ろに開口する。
テンジクダイ科はテンジクダイ亜科・クダリボウズギス亜科の2亜科の下に、23属273種が記載される[1]。かつて本科に含まれていたヤセムツの仲間は、25個の椎骨をもつなどの形態の相違に基づき、現在では独立のヤセムツ科 Epigonidae として分類されている[3]。
テンジクダイ亜科 Apogoninae は19属260種で構成される。多くの種類が、口の中で卵を孵化させる、口内保育(マウスブルーディング)の習性をもつ。
クダリボウズギス亜科 Pseudaminae は4属13種を含み、サンゴ礁域の岩穴や洞窟に生息する種類が多い[2]。歯骨と前上顎骨に大きな犬歯を備える。側線をもたないか、あっても不完全。鱗は円鱗か、あるいはない。