ササクレヒトヨタケ(ささくれ一夜茸、学名:Coprinus comatus)は、ハラタケ科ササクレヒトヨタケ属に属するキノコの一種。
全体の高さ3-12㎝ほどになる中形ないしやや大形のキノコで、かさは先端に丸みを帯びた円筒形を呈し、通常は平らに開くことはなく、全長1.5-7㎝、最も太い部分の径は1-3.5㎝程度である。表面は白色・繊維状で粘性を欠き、灰白色ないしかすかにクリーム色を帯びた平たいささくれ状の鱗片が散在し、かさの縁は裂けやすい。かさの肉はきわめて薄く、もろくて柔らかく、変色性を欠き、ほとんど無味無臭である。
ひだはごく密で柄に直生ないし離生しており、薄くて比較的幅が広く、幼時は白色であるが、成熟に伴ってかさの縁から次第にピンク色を経て灰紫色となり、さらに黒変し、かさの肉とともに最後には黒インク状に液化・溶解して消え去る。この液化は腐敗によるものではなく、ササクレヒトヨタケ自身が産生する酵素の働きによる自家消化である。
柄は基部が紡錘状に膨らみ、白色で光沢があり、脱落しやすく薄い膜質のちいさな「つば」を備え、内部は管状に中空である。
胞子は楕円形で一端に明瞭な発芽孔を備え、表面は平滑、黒褐色ないしほとんど黒色を呈する。ひだの側面にも縁にも多数のシスチジア(無色・薄壁で嚢状またはこん棒状、あるいは逆フラスコ状など)を備えている。菌糸にはかすがい連結を有する。
春から晩秋にかけて、草地・庭園・畑地、あるいは路傍などの、有機質に富んだ地上に孤生ないし群生する。ときに、ウマやウシなどの糞上にも見出されることがある。代表的な腐生菌の一つである。
最近の研究によれば、本種は線虫を捕捉し、窒素源として資化する線虫捕食菌のひとつでもあるという[1]。
極地を除いてほぼ全世界に広く分布する。日本国内でも、各地で普通に見出される。
外観上でまぎらわしい有毒きのこは知られておらず、味もよい。海外では、「キノコ狩りの超初心者が、まず覚えるべきキノコの一つ」として扱われている。ひだが純白で黒ずんでいない「つぼみ」を主に利用するが、かさやひだが液化してしまったものであっても、柄は食用にできる。ソテーやフライ・シチューなどによく使われ、さっと茹でて温野菜サラダに加えられることもある。
なお、本種と同様にかさやひだに液化性を持つヒトヨタケは、アルコールとともに食べると一種の中毒症状を起こすが、ササクレヒトヨタケにはその危険はない。[2]
松本零士の作品「男おいどん」に登場するキノコ『サルマタケ』のモデルはササクレヒトヨタケであるという。[3]
主にウマの糞上に発生するマグソヒトヨタケは、外観が多少ササクレヒトヨタケに似るが、全体にやや小形で、かさの表面をおおう鱗片がより繊細で消失しやすいことと、胞子がはるかに大きいことで区別される。前者も無毒で、ササクレヒトヨタケと混同して食用にしても差し支えはない。
従来はヒトヨタケ科に所属し、ヒトヨタケ科およびヒトヨタケ属のタイプ種であったが、DNA塩基配列に基づく分子系統学的解析の結果、ハラタケ科に移された。
含硫アミノ酸のエルゴチオネインを豊富に含む。
最近では人工栽培も試みられ、「コプリーヌ(フランス語名に由来)」あるいは「コケシタケ(食用適期のつぼみの外観に由来)」などの商品名が与えられて市販されつつある。
ササクレヒトヨタケ(ささくれ一夜茸、学名:Coprinus comatus)は、ハラタケ科ササクレヒトヨタケ属に属するキノコの一種。