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クモ綱(クモこう、羅: Arachnida、en:Arachnid)は、節足動物門鋏角亜門に属する分類群。蛛形綱(ちゅけいこう);クモガタ綱[1]とも呼ばれる。クモだけでなく、ダニ、サソリなどを含む、大きなグループである。いずれも体は前体(頭胸部)と後体(腹部)という2部分に分かれ、8本の脚を持ち、触角と顎はなく、口の前後には鋏角(きょうかく)と触肢という器官を持っている。
体は前体(頭胸部)と後体(腹部)からなる。前体と後体の間はくびれるものとくびれないものがある。くびれるものでは後体第1節に由来する腹柄によって両者は繋がる(クモなど)。くびれないものでも両者の区画は明確なものが多い(サソリなど)が、ダニでは極めて強く密着する。後体はクモ、ダニをのぞいては節に分かれている。
前体は背面を1枚の外骨格(背甲)に覆われ、ここに眼を持つものが多い。複眼は持たない。体節はほとんど区別できないが、腹面の外骨格(腹板)にその痕跡が見られ(ウデムシ・コヨリムシ)、背甲が部分的に別れる例もある(コヨリムシ・ヤイトムシ・ヒヨケムシ)。 口の前方には1対の鋏角があるだけで、その次に1対の触肢と4対の歩脚がある。歩脚は基節・転節・腿節・脛節・前符節(基符節)・符節という7節から構成する。触肢は前符節を欠き6節からなり、鋏角は2-3節に分かれる。 他の鋏角類と同じく、甲殻類や昆虫に見られる触角と大顎などの独立の口器は存在しない。
後体は最多13節に分かれ、ほとんど付属肢はない。付属肢由来の器官として書肺の他に、出糸突起(クモ)や櫛状板(サソリ)を持つものがある。後体の後端に尾節という部分を生えたものもあり、サソリモドキ・ヤイトムシ・コヨリムシの尾節は紐状、サソリは腹部の前半部は太くて後半部は細長くなり、先端は尾節は鈎状の毒針となる。
呼吸器官としては、後体の下面に書肺と気管がある。両方を持つもの、片方だけを持つものがあり、コヨリムシや一部のダニは呼吸器官を持たず、体表でガス交換を行う。
生殖孔は後体第2節の腹面に開口する。本当の交尾は、ザトウムシ目にのみ見られる。その他のものでは、精子の入った袋(精包)を受け渡す形を取るものが多い。
クモ綱の節足動物は全て単眼しか持たないが、その共通祖先はカブトガニ綱に見られるような、前体の前方側面に1対の複眼と、そのやや内側に1対の補助的な単眼を備えた生物であったと考えられており、全ての眼はこのいずれかを起源に持つ。 例としてクモ綱中で最も原始的な形態を維持していると考えられるサソリは、祖先の複眼が退化しその個眼が単眼化したと考えられる側眼と、祖先の単眼が概ね維持されたと考えられる中眼を持つ。
一部を列挙すると、
クモ綱の動物はほとんどが肉食性である。ダニには非常に多くの例外があるが、それ以外のものはザトウムシに雑食性のものが報告されている程度で、基本的には小動物を捕食する。このようにその食性に多様性が低いのは、口器周辺の附属肢が一対の鋏角しかなく、多様な食性に合わせて特殊化するのが難しいことによるともいわれる。
多くのものは真の交尾を行わず、精包の受け渡しを行う。その際に、雌雄で一種のダンスを行うなど、特殊な配偶行動が見られる例が多い。ザトウムシ目では真の交尾が行われる。
産卵した卵を自分で守ったり、自分の体に乗せて孵化まで保護するといった行動が見られるものも多い。
カブトガニ綱、ウミグモ綱とともに鋏角亜門を構成する。古くは三葉虫との系統関係があるとされてきたが、最近は否定的である。
古生代から知られるウミサソリも、鋏角亜門であり、サソリとの形質的共通点がある。そのため、ウミサソリをサソリの直接の先祖と見なし、ここから他のクモ綱のグループが派生したとする説もあるが、疑問視する向きもある。ほかに光楯類がこの群に属するが、詳細はよくわかっていない。
下位系統については議論が続いているものの、暫定的に有力なものを以下に記す[1][2]。下記の系統図に「?」が付いているものは、類縁関係がまだ不安定な分類群である。また、分子系統学による知見はダニ類の単系統性を支持しないものが多い。
鋏角亜門 ?胸板ダニ類(Acariformes)
胸穴ダニ類(Parasitiformes)
ダニ類を目階級として扱えば、現生のものでは以下の11の目がある。多くは熱帯を中心に分布し、最後の3つの目は、日本に分布しない。 それぞれの目の特徴は明確で、紛らわしい部分、あるいはその位置に悩む種などはほとんど無い。綱内部の目の間の関係については、上記の通りに諸説あって定まっていない。
クモ目(ニワオニグモ Araneus diadematus)
ザトウムシ目(マザトウムシ Phalangium opilio)
カニムシ目(Chelifer cancroides)
サソリ目(イスラエルゴールドスコーピオン Scorpio maurus)
サソリモドキ目(ジャイアントビネガロン Mastigoproctus giganteus)
ダニ目(ナミハダニ Tetranychus urticae)
クツコムシ目(Cryptocellus goodnighti)
コヨリムシ目(Eukoenenia spelaea)
ヤイトムシ目(Hubbardia pentapeltis)
ウデムシ目(Damon variegatus)
ヒヨケムシ目(Gluvia dorsalis)
なお、化石でのみ知られている絶滅群として、以下の目がある。
現生群の中では、ダニ目が最大で約5万種、クモ目は4万種と大きく、ザトウムシ目とカニムシ目が数千種、サソリ目が千種を越える程度。特にダニ類はその形態・習性・生育環境等が非常に多様で、その多様性はほぼ昆虫に匹敵するとも言われる。逆にウデムシ目、コヨリムシ目、クツコムシ目等は100種以上ほどにすぎない。
大まかに言えば、クモ綱は昆虫に先立って上陸し、肉食動物として進化したにもかかわらず、昆虫などの進歩発展の中でついて行けずに衰退し、一部が遺存している群である。その中でクモ目は糸と網を駆使して昆虫を餌とすることで、ダニ目は小さな体で多様なニッチに進出(動物・昆虫・植物への寄生、昆虫食・植物食・腐植食など)したことで成功したと見られる[3]。