ネズミザメ(鼠鮫、学名:Lamna ditropis、英名:Salmon shark)は、ネズミザメ目ネズミザメ科に属するサメ。地方名でモウカザメ、カドザメなどとも呼ばれる。全長3 m。太平洋北部の亜寒帯海域に生息する大型の捕食者である。
特殊な筋肉系、循環系により体温を海水温よりも高く保ち、高速遊泳を行う。季節回遊を行うことも知られている。
属名 Lamna は「凶暴な魚」。種名 ditropis は、「2つの」を意味する接頭語"di"と「隆起線」を意味する"tropis"が合わさったもので、本種の尾柄部と尾鰭にある2本の隆起線に由来している。
標準和名はネズミザメであるが、いくつかの別名がある。
モウカザメ(毛鹿鮫)は東北地方でよく使われる名称で、マフカザメ(真鱶鮫)が訛ったものだといわれる。マダイ(真鯛)やマアジ(真鯵)などを見ても分かるように、魚名に「マ(真)」がつくものは「代表種」の意味合いを持っており、東北地方の代表的なフカ(サメのこと)であることからマフカの名が付けられたのであろう。実際、東北はネズミザメの水揚量が多い。
カドザメ(カトザメ・カトウザメとも)の由来にはいくつかの説があり、渾然一体としている。「カド」がニシンの地方名であり、これを捕食することからというもの。また「カド」はカツオの地方名でもあり、やはりこれを捕食することからというもの。これらとは別にネズミザメ漁を初めて行った江戸時代の漁師、加藤音吉の名から来ているという説もある。一部の地方ではカトザメがアオザメを表すこともある。
サケザメ(鮭鮫)は、英語でもサーモン・シャーク "Salmon shark" と呼ばれるように、サケを捕食することに由来する。漁業ではサケを食害するサメということで、漁師には歓迎されない。
他に、ラクダザメやゴウシカがある。
北部太平洋の亜寒帯海域を中心に分布し、ベーリング海やアラスカ湾、プリンス・ウィリアム湾などを主な生息地とする。日本近海では日本海やオホーツク海に現れる。寒冷な環境を好むが、回遊によってかなり南の海域まで進出することがある。最も低い緯度ではハワイ沖(北緯22°)まで南下した例が報告されている。他に、カリフォルニア州沿岸でも生息が確認されており、さらに南のメキシコ沿岸まで進出している可能性もある。
沿岸域・外洋域の両方に出現する。普段は海表面近くを遊泳するが、水深700 m 程度まで潜ることもある。また、亜熱帯海域では温度躍層を避けて、300 - 500 m 程度の深度を遊泳することが多いようである。
最大で全長305cm、体重175.0kg[2]。体は紡錘型で水の抵抗を受けにくい。背側の体色は青みを帯びた灰色もしくは黒色、腹側は白色で濃色の斑紋が点在する。尾鰭は上葉がわずかに長いものの、上下がほぼ同じ長さで三日月型をしている。尾柄には明瞭な隆起線があり、さらに尾鰭の中央よりやや下にも隆起線が見られる。種名 ditropis (「二つの隆起線」の意)はここからきている。
外見は小型のホホジロザメのようにも見えるが、やはり隆起線の数で見分けることができる。同属にニシネズミザメがいるが、形態的にはニシネズミザメの第一背鰭の後縁が白色なのに対し、本種ではそれがないことで見分ける。
サケザメやサーモン・シャーク "Salmon shark" の名の通り、サケを捕食することでよく知られている。またニシンも好んで食べる。亜寒帯海域では最高次捕食者の地位を占めている。
太平洋北東部の個体の方が、北西部の個体よりも早く成熟する傾向がある。太平洋北西部では雄は全長約177〜186cm、雌は200-223cmで成熟し、成熟年齢は雄5年、雌8〜10年である[3]。太平洋北東部では雄158cm、3〜5年、雌205cm、6〜9年で成熟する[3]。
胎生。ただし、胎仔と母親を直接つなぐ胎盤のような器官は持たない。子宮の中で卵黄の栄養を使ってある程度の大きさになった胎仔は、卵巣から排卵される栄養の豊富な未受精卵を食べて育つ。これはネズミザメ目に見られる卵食型である。妊娠期間は約9ヶ月[1]、産仔数は2-6尾[3]、出生時の大きさは84-96cm[3]。
以前は卵胎生と呼ばれたが、子宮の中で母親から卵という形で間接的に栄養分をもらって育つことから、広義の胎生に含める。
ほとんどの種が外温動物(変温動物)である魚類の中にあって、ネズミザメは外部温度にかかわらず体温をある程度一定に保持することができる性質(内温性)を備えている。内温性魚類は、同じネズミザメ科のアオザメやホホジロザメ、真骨魚ではマグロやカツオ、カジキといった種類である。これらはみな高速遊泳を行うという点で共通している。
ネズミザメの赤筋(遅筋、血合い肉)の分布位置は他の魚と異なり、体の中央深部、脊椎骨の周囲に集中している。持続的遊泳に使われる赤筋を外界から遠ざけることで代謝熱を保持し、周囲にある白筋(速筋)へ効率良く伝導させる。さらに筋肉には奇網が発達し、保温能力を高めている。奇網では体内からの温かい血液と体表からの冷たい血液が対向流交換系をなし、熱の伝導が行われる。
この内温性により、ネズミザメは大抵のサメ類が寄り付かない亜寒帯海域という地理的なニッチを獲得している。
寒い海に生息するので、人が襲われた記録はないものの、大型で獰猛なサメに入るので、危険な種である。
サケ類を捕食するので、水産上の重要害魚という形で扱われることもある。
一方で、ネズミザメは食用魚としての利用のために漁獲されている。漁には延縄や流し網が用いられる。日本国内においてはそのほとんどが気仙沼港(宮城県)に水揚げされ[4]、気仙沼での水揚げ量はヨシキリザメに次いで多い[5]。サメ類の中では比較的アンモニア臭が少なく食用向きとされ[5]、肉が切り身や魚肉練り製品の原料として消費されるほか、心臓はモウカの星とよばれ刺身や酢味噌和えにされる[6]。またふかひれも採取される。
栃木県では切り身をもろ(モロ)と称して販売することが一般的で、スーパーマーケットや鮮魚店にもよく並ぶ[4]。店頭では、東北地方の和名である「モウカ(モーカ)ザメ」や、「むきサメ」と表示されることもある。飲食店や学校給食のメニューとしても一般的である[7]。
比較的安価で調理しやすい食材として人気が高く、主に、煮付けやフライなど、加熱して食べる。ネズミザメという名前を表示しないのが一般的であるため、サメ肉であると知らないで食べている消費者も多い。内陸の栃木県で特に消費されるのは、産地の気仙沼周辺から比較的近く、かつ、時間が経つとアンモニアを発する性質により腐りにくい鮮魚として、鮮魚輸送技術の未発達な時代から運んで売られたのが根付いたという意見がある[4]。
飼育および運送などは他のネズミザメ科と同じように大変難しい。2017年6月2日、北海道のおたる水族館に子供が運ばれたが、半日で死亡している[8]。
ネズミザメ(鼠鮫、学名:Lamna ditropis、英名:Salmon shark)は、ネズミザメ目ネズミザメ科に属するサメ。地方名でモウカザメ、カドザメなどとも呼ばれる。全長3 m。太平洋北部の亜寒帯海域に生息する大型の捕食者である。
特殊な筋肉系、循環系により体温を海水温よりも高く保ち、高速遊泳を行う。季節回遊を行うことも知られている。