セイヨウノコギリソウ (Achillea millefolium) はヨーロッパ原産のキク科ノコギリソウ属の多年草の1種である。ヤロウ (yarrow) とも呼ばれる。花言葉は「真心を持って」「戦い」「悲嘆を慰める」「治療」「指導」。
ヨーロッパ原産であり、空地、道端などに自生しているのが見かけられる。花期は7-9月頃で、灰色がかった白色、または薄ピンクの小さな花が固まって咲く。草丈は60センチ程度に育つ。葉は細かい羽状複葉で、ノコギリのように見える。そのためミルフォイル(millfoil)、サウザンド・ウィード(Thousand weed「たくさんのギザギザのある葉を持つ草」)の名前でも呼ばれることがある。株分けで容易に栽培でき、土質も選ばず根が広がるため、庭に生えると増えすぎて困るほどである[1].ヤローという英名は、アングロ・サクソン名"gearwe"、オランダ語"yerw"の訛りである[1]。アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアに帰化している。繁殖力が強く、本州と北海道の一部で野生化している[2]。その生命力の強さは、堆肥用の生ゴミに一枚の葉を入れるだけで急速にゴミを分解していく[3]。また、根から出る分泌液は、そばに生えている植物の病気を治し害虫から守る力があり、コンパニオンプランツのひとつといわれている[4]。 紅色や深紅色の園芸品種があり、「アカバナセイヨウノコギリソウ」の名で流通している。また、同じ仲間で草丈1メートルに育ち、黄色の花をつけるイエローヤロウ(キバナノコギリソウ)、草丈20センチで黄色の花をつけるウーリーヤロウ(ヒメノコギリソウ)がある[5]。
「兵士の傷薬」という古い呼び名があり、止血、傷口を固める効能があることで、昔から知られている。属名であるアキレア(Achillea)は、古代ギリシャの英雄アキレスに由来する。アキレスが、トロイア戦争で負傷した兵士たちにこの草の効能を説いたという。イギリスではサクソン人が、5世紀頃から薬草として栽培していた。家で育てたものを乾燥させ、家族のために火傷や切り傷に効く軟膏を作っていた。古くはアイルランドのドルイドが、この草の茎を使って天候を占っていた。また、中世では、悪魔を遠ざける強い魔力があると信じられ、結婚式の花束に盛り込まれた。イギリスでは恋占いにも使われ、アメリカに渡った開拓者たちもこれを栽培し、外傷薬として用いた[6]。19世紀には、乾燥させた葉をタバコの代用として用いていた[1][3]。日本には1887年(明治20年)に渡来した[6]。
花、葉は強壮効果、食欲増進、発汗、解熱作用があるとされハーブティーとして飲まれる一方、冷やして傷口の消毒にも用いられる。また、殺菌力があり、傷を治すハーブとして、葉をそのまま傷口にあてがったり、粉末にして軟膏にしたものを用いる。また、生の葉を噛むと歯痛を鎮めるといわれている。リウマチの治療にも使われている[1]。
若葉は軽やかな風味があり、大きくなると辛みが増し胡椒の風味が出る。刻んでサラダに加えられる。また、ほうれん草のように茹でて食べることもある。 スウェーデンでは、ビールの醸造にフィールド・ホップと呼ばれて用いられていた[1][5]。