
この項目では、昆虫について説明しています。仮名文字・日本語の音節については「
か」を、その他の用法については「
カ (曖昧さ回避)」をご覧ください。

「
ボウフラ」および「
蚊」はこの項目へ
転送されています。土瓶の一種については「
ボーフラ」を、ゲームについては「
蚊 (ゲーム)」をご覧ください。
カ科
地質時代 ジュラ紀 -
現代 分類 界 :
動物界 Animalia 門 :
節足動物門 Arthropoda 綱 :
昆虫綱 Insecta 目 :
ハエ目(双翅目)
Diptera 亜目 :
カ亜目(長角亜目、糸角亜目)
Nematocera 下目 :
カ下目 Culicomorpha 上科 :
カ上科 Culicoidea 科 :
カ科 Culicidae 学名 Culicidae Meigen, 1818 英名
mosquito 亜科 カ(蚊)は、ハエ目(双翅目)糸角亜目カ科(学名: Culicidae)に属する昆虫である。ナガハシカ属、イエカ属、ヤブカ属、ハマダラカ属など35属、約2,500種が存在する。ヒトなどから吸血し、種によっては各種の病気を媒介する衛生害虫である。
カの最も古い化石は、1億7,000万年前の中生代ジュラ紀の地層から発見されている。
形態・生態[編集]
Culiseta longiareolata (Macquart, 1838) のメス
- 体長
-
成虫はハエと同様、2枚の翅を持ち、後翅は退化して平均棍になっている。細長い体型で、頭は丸く、足は長い。大きさはさまざまだが、ほとんどは15mm以下である。飛行能力は低く、エアコン、扇風機といったわずかな風によって飛行障害を起こしてしまう。
- 飛行速度
- 重量はわずか2–2.5mg、飛行速度は約1.5–2.5km/hほどであり、通常でも1秒間に520回以上羽ばたくが、吸血後は体が重くなるため大幅に羽ばたく回数が増え、それに伴い飛行速度は落ちる。カの飛翔距離やそれに起因する行動圏の広さは種によって様々である。
-
長崎県における調査によるとコガタアカイエカの通常の1日の行動範囲は1km程度であるが、中には1日で5.1kmの距離を飛ぶ個体もあり、また同種が潮岬南方500kmの位置から採集されている。これは風速を考慮すると高知県から24時間、あるいは静岡県から19時間で到達したと考えられている。その一方で、タイ王国バンコクにおけるネッタイシマカの調査では、24時間で37mしか移動していないことが記録されている。
-
JICAの公表する資料によれば、ハマダラカのうちタンザニアのダルエスサラーム市(最大都市)とタンガ市(北部の港湾都市)で流行している土着マラリアの主要な媒介蚊 Anopheles gambiae(真水で棲息)と An. merus(塩水で棲息)の成虫の飛翔範囲は幼虫棲息地を中心に数百mであるという[1]。また同じハマダラカ類で、一日の飛翔距離は An. funestus で800 m 程度、An. pharoensis で9kmであることが記録されている。
- 羽音
- 蚊の羽音は400Hz–900Hz程度であり、種類によって異なる。羽音を利用した誘殺駆除や忌避グッズもあるが、羽音の10倍もの倍音を持つ3–6kHzの音を発する忌避グッズもある。こういった超音波や音波で蚊を避けるグッズは、2007年11月20日、公正取引委員会により、公的機関での実験の結果「効果が認められない」とされ、景品表示法違反による排除命令が出された[2]。
餌・吸血[編集]
- 口吻と餌
- 全てのカはオスもメスも長い口吻を持つ。この口吻は円筒状に巻いた上唇が食物を吸収する管となり、その下面には唾液を送り込む管となっている下咽頭、左右には針状の大顎、小顎が添えられている。そしてその全体を樋状になった下唇が鞘となって保護している。皮膚に刺針を差し込む時は、下唇を外部で「く」の字に折り曲げ、吸血後、刺針を再び被う。
- 通常の餌は、植物の蜜や果汁などの糖分を含む液体である。
- 吸血
- 吸血に際しては下唇以外の部分が、小顎先端の鋸歯で切り開かれた傷に侵入していき、毛細血管を探り当てる。メスは卵を発達させるために必要な、タンパク質を得るために吸血する。吸血の対象はヒトを含む哺乳類や鳥類だが、爬虫類や両生類、魚類から吸血する種類もある。オスはメスと違い、血を吸うことはない。またオオカ亜科の場合、メスであっても吸血を行わない。
- 吸血の際は皮膚を突き刺し、吸血を容易にする様々なタンパク質などの生理活性物質を含む唾液を注入した後に吸血に入る。この唾液により血小板の凝固反応は妨げられる。この抗凝固作用がないと血液は体内で固まり、蚊自身が死んでしまう。
- 多くの蚊は気温が15度以上になると吸血を始めると言われており、26度から31度くらいでもっとも盛んに吸血活動を行う。通常の活動期間内であっても気温が15度以下に下がったり、35度を越えるようなことがあると、野外では物陰や落ち葉の下などでじっとして活動しなくなる。
- 刺された痒み
- また、この唾液は人体にアレルギー反応を引き起こし、その結果として血管拡張などにより痒みを生ずる。唾液は本来、吸引した血とともに蚊の体内に戻される。血液を吸引し終われば、刺された箇所の痒みは、唾液が戻されなかった場合よりは軽度になるとよく言われているものの、実際には、吸っている間に唾液も血と一緒に流れていくので必ずしも軽度になるとは言い切れない。[3]また、何らかの理由で吸引を中断し飛び立った場合、唾液を刺された体内に残したままであるため、痒みが残る。中和剤は存在せず、抗ヒスタミン薬軟膏の塗布により抑えることになる。蚊を叩き落す際、上から潰すと唾液が体内へ流れ込むため、指で弾き飛ばすと、痒みを減らすことができる[要出典]。
生活環[編集]
一生のうちで、卵→幼虫→蛹→成虫と完全変態する。卵から蛹までの期間は種や温度によって変わる。イエカの一種 Culex tarsalis は、20℃の環境では14日で生活環を完成させる。25℃の環境では10日である。
- 卵
-
卵はヤブカ類では水際に、オオカ類やハマダラカ類では水面にばらばらに産み付けるがイエカ類では水面に卵舟と呼ばれるボート状の卵塊を浮かべ、数日のうちに孵化する。なお、産み付けられた卵や幼虫は産卵誘因フェロモンを放出しており、卵や幼虫がいる水ほど他の蚊が産卵しやすい。特定の細菌も蚊の産卵誘因物質を産生している。
- 幼虫 (ボウフラ)
-
幼虫は全身を使って棒を振るような泳ぎをすることから、古名の「棒振り」「棒振り虫」が訛ってボウフラ(孑孒、『広辞苑』によれば孑孑でもよい)となった。[4]地方によってはボウフリの呼称が残る。ボウフラは定期的に水面に浮上して空気呼吸をしつつ、水中や水底で摂食活動を行う。呼吸管の近くにある鰓は呼吸のためではなく、塩分の調節に使われると考えられている。
- 生息場所としては、主に流れのない汚れた沼や池などに生息するが、ハマダラカの一部などで知られるようにきれいな水を好むものや、それ以外にも水たまりや水の入った容器の中など、わずかな水場でも生息するものがいる。トウゴウヤブカにみられるように、海水が混じるため海浜部にある岩礁の窪みの、しばしば高い塩分濃度になる水たまりにも生息するものも知られる。また、水田も蚊の生息地としては重要なものである。
- ボウフラは環境の変化には弱く、水質が変化したり、水がなくなったりすると死滅しやすい。水に川のような流れがあると生活できないものがいる一方、渓流のよどみを主な生活場所とするものもいる。特殊な環境で成長する種類もおり、樹木に着生したアナナス類の葉の間にたまった水、食虫植物のサラセニアの捕虫器内の水、波打際のカニの巣穴内などで成長する種類もいる。
- ボウフラは空気を呼吸するのに尾端にある呼吸管を使用するが、ハマダラカ類では呼吸管がないため、体を水面に平行に浮かべて、背面の気門を直接水面に接して呼吸する。幼虫のほとんどは水中のデトリタスや細菌類などを食べ、ハマダラカ類では水面に吸着した微生物、イエカ類では水中に浮遊する微生物や細かいデトリタス粒子、ヤブカ類では水底に沈んだ粗大なデトリタス塊を摂食する傾向が強い。オオカ亜科の幼虫は他の蚊の幼虫を捕食する。
- さなぎ
-
蛹はオニボウフラ(鬼孑孒)とよばれる。胸から伸びた呼吸管が鬼の角のように見えることに由来する。他の昆虫の蛹と同じく餌はとらないが、蛹としては珍しく幼虫と同じくらい活発に動く。呼吸は胸の「ホルン」と呼ばれる器官を使って行う。
人間との関わり[編集]
伝染病の媒介者[編集]
カは人類にとって最も有害な害虫である。メスが人体の血液を吸い取って痒みを生じさせる以外に、伝染病の有力な媒介者ともなる。カによって媒介される病気による死者は1年間に75万人にもおよび、2位の人間(47万5000人)を抑えて「地球上でもっとも人類を殺害する生物」となっている[5]。マラリアなどの原生動物病原体、フィラリアなどの線虫病原体、黄熱病、デング熱、脳炎、ウエストナイル熱、チクングニア熱、リフトバレー熱などのウイルス病原体を媒介する。日本を含む東南アジアでは、主にコガタアカイエカが日本脳炎を媒介する。地球温暖化の影響で範囲が広くなっている問題もある。カによる病気の中で最も罹患者及び死者の多い病気はマラリアであり、2015年には2億1400万人が罹患して43万8000人が死亡した[6]。こうしたカによる伝染病はカの多く生息する熱帯地方に発生するものが多く、マラリアをはじめ黄熱病やデング熱などはほぼ熱帯特有の病気となっている。また、カが媒介する伝染病は特定の種類のカによって媒介されることが多く、マラリアはハマダラカ、黄熱病やデング熱はネッタイシマカやヒトスジシマカ、ウエストナイル熱はイエカ、ヤブカ、ハマダラカによって媒介される[7]。
蚊によって媒介される伝染病は、感染源によって3つのタイプに分かれる。家畜や野生動物などからしか人間に感染しないもの、家畜や野生動物、および感染した人間から人間に感染するもの、そして人間の間でしか感染しないものである。最初のタイプは日本脳炎などが該当し、野生動物(日本脳炎の場合は水鳥)や家畜(日本脳炎の場合はブタ)から吸血した蚊がウイルスを保持するようになり、その蚊が人間から吸血することでその人間に感染する。このタイプの場合、感染した人間から他の人間や動物には感染しない。2番目のタイプには黄熱病やデング熱などが該当し、野生動物(黄熱病やデング熱の場合はサル)およびそれらに感染した人間から吸血した蚊がウイルスを保持するようになり、その蚊が人間から吸血することでその人間に感染する。3番目のタイプにはマラリアなどが該当するが、これらの病原菌は動物は保持しておらず、感染した人間から蚊が吸血することによってのみ病原体が広まる。このため、周囲にマラリア感染者がまったく存在しない場合は、マラリアに感染する可能性はない。一方前二者のタイプにおいては感染経路において人は一部のみ、または全く関与していないので、感染者がいなくとも流行が起きることはありうる[8]。
吸血宿主選択性(蚊に刺されやすい人、刺されにくい人)[編集]
- 血液型
- よく刺されやすい血液型と、刺されにくい血液型があると言われる。一般的には、O型が刺されやすく、A型が刺されにくいと言われている。これに関して検証した事例は世界的に見てもほとんど無いが、富山医科薬科大学で研究が行われ、論文が公表された[9]。
- しかし、血液型性格分類でされる批判と同じく、数ある血液型の中で特別ABO式を基準にする科学的根拠はなく、蚊の吸血行動に影響を与えそうな血液型由来の物質も、現在のところ知られていない。これらのことから、刺されやすい血液型と、刺されにくい血液型があるという説は、科学的に否定的な見方が強い。
- 二酸化炭素・温度
- 蚊は二酸化炭素の密度が高いところへ、周りより温度が高いところへ向かう習性がある。体温、におい、周りとの二酸化炭素の密度の違いなどで血を吸う相手を探している。そのため体温が高く、呼吸回数が多い、つまり新陳代謝が激しい人は特に刺されやすい。普段は刺されにくい人でも、新陳代謝量が増える運動をした後や、ビールを飲んだ後は刺されやすくなる。また、足のにおいを好み、足の方に集中する。
- 吸血宿主である動物が呼気中に排出する炭酸ガス量は、ニワトリは25ml/min、ヒトは250ml/min、ウシ・ウマなどの大家畜は2,500ml/minであり、炭酸ガス量に対する複数の種類の蚊の反応と、これらの動物への蚊の嗜好性がよく一致することから、関連性があるといわれている[10]。
- 湿度
- 蚊は湿度にも反応する。例えば汗をかいて、それが蒸発すると蚊が反応し、刺されやすくなる。したがって、汗かきの人は刺されやすい。汗の中のL(+)-乳酸が誘引物質として認められている[10]。
- 肌・服の色
-
黒色の服は熱を吸収しやすいため、黒い服を着ていると刺されやすくなる。白色の服は熱を吸収しにくいので、刺されにくくなる。また肌の色についても、インド人、ビルマ人、中国人の混住するミャンマーではインド人が最も蚊による感染症リスクが高く、体色の違いとともに臭いが関連していると予想されている[10]。
- 羽音の可聴音
-
成人(25〜30歳以上)になると可聴音の範囲が徐々に狭まり、蚊がだす高音域の羽音を聞き取ること(“キーン” “フーン”という擬音で形容される)が困難となり接近しているのがわからず刺されやすくなる。
- 性別
- 男性の方が刺されやすい。これは発汗による水分蒸散の量が関連していると考えられる。50人の男性の平均刺咬数は50人の女性のそれより大きいことが実験されている[10]。
- 性ホルモン
-
月経と関連して、平均刺咬数が多く吸血誘引性つまり刺されやすさに周期性を認めることができることが実験されている[10]。
- その他の誘引物質
- 一部の短鎖脂肪酸[10]、含硫アミノ酸[10]、アンモニア[11]、1-オクテン-3-オール[12][13]、その他の体臭[14]
近江国の守山は湿地が多く、古くは蚊の名所として知られ、人間ほどの蚊が出るという伝説があった。この蚊は狂言『蚊相撲』に登場し、人間に相撲を取ろうと持ちかけて近づき、血を吸おうとするが正体を見破られ、扇で煽がれて退治される。
蚊とDNA検査[編集]
人の血を吸った蚊の体内に残るヒトDNA型を鑑定することで、吸血2日後まで個人が特定できることを、名古屋大学大学院医学系研究科の山本敏充准教授らの研究グループが実験で確かめた。この研究では、グループは殺虫剤「キンチョール」で知られる大日本除虫菊(KINCHO)の協力を得て、無菌状態で飼育された蚊を入手した。国内で一般的なヒトスジシマカ、アカイエカにヒトの血を吸わせ、一時間後から72時間後まで数時間ごとに体内のヒトDNAを抽出。量や分解の程度を調べるとともに、DNA型による個人の識別を試みた。7人の被験者で検証した結果、吸血から48時間後までDNA型判定が可能だったという。いつ吸われた血か、半日単位で推定できることも分かった。グループは今後、1匹で複数のヒトの血を吸った場合の識別や、経過時間の精度向上を目指し、実験を続ける。山本准教授は「犯罪現場では蚊にも刺されてはいけない、という恐れが犯罪抑止につながれば」と話す。研究成果は2017年6月15日付米科学誌電子版に掲載された[15]。
蚊の駆除・忌避・防除[編集]
成虫が活動する時期・場所[編集]
蚊は水たまりが発生源で、成虫は樹木や草むらで休む[16]ため、その近くは刺されないよう警戒したり、駆除を行ったりする対象エリアとなる。さらに季節による気温の変化が大きい日本では、成虫は夏に活発な行動を見せる。日本気象協会はアース製薬と協力し、地域ごとに蚊に注意すべき度合いを「蚊ケア指数」として公表している[17]。
駆除作業の手順[編集]
国立感染症研究所によると、蚊の駆除作業を大規模に行う場合は、生息密度調査の結果に基づき、まず成虫が潜伏している可能性の高い場所を確認する。また駆除後にも同じ場所で生息密度を調べて、駆除効果の判定を行う。2015年時点で即効性の高い成虫駆除方法としては、殺虫剤の散布以外にない。散布する際には周辺住民への周知を徹底する。ヒトスジシマカは藪を潜伏場所としていることが多い。木陰の中・低木の茂みや生垣などの場合、ハンドスプレイヤーのノズルの先を茂みの中に突っ込み、吹き出し口を上に向けて殺虫剤を茂みの下から散布して、潜んでいる蚊に吹き付けるようにする。広い緑地や大きな公園で広範囲に下草や中・低木が密に茂っているような場合、炭酸ガス製剤の駆除効果が高いと言われる。成虫の潜伏場所の状況に合わせて適切な薬剤と散布方法を選択し、環境への悪影響を極力小さくするような配慮が必要である[18]。
下記には様々な種類の駆除・忌避・防除について紹介する。とりわけ殺虫剤の使用による環境汚染問題は先進国から開発途上国に広がっており[19]、より安全で効果の高い代替の駆除技術が望まれ、研究が進められている。
化学的防除(殺虫剤)[編集]
ピレスロイド系の成分を含むエアゾール殺虫剤により駆除された蚊
蚊取線香はよく使用される蚊の防除器具のひとつである
除虫菊に殺虫効果があるとみられることは古くから経験的に知られていた。また、蚊の一部の種は柑橘系の樹木・果実を嫌う習性があり、夏みかん等の果実の皮汁・果汁を人体に塗布する地方もある。「墓地の花入れに十円硬貨を入れておくと、蚊が湧かない」という言い伝えがあるが、実際に水の中に銅片を入れておいたり、水を銅製容器に張っておいたりすることでボウフラの発生を防ぐ効果があるらしいことが分かり、2006年6月ごろから社団法人日本銅センターが中心となって実証実験をする。
現代的な駆除は、家庭内では蚊取線香や蚊取りリキッドなどを夜間に使用して駆除を行う。日本において蚊に用いる殺虫剤は医薬品医療機器等法に則り、厚生労働省が承認した、医薬部外品として取り扱われる。 蚊のための殺虫剤は以下のとおり。
-
ピレスロイド系殺虫剤
-
除虫菊の成分を改変した一連の化合物。即効性で、家庭用としても多用される。揮発性は一部の化合物を除いて低い。除虫菊の殺虫成分は分解が早く、殺虫効力の低い異性体が多く混じっており、効力が低いために様々な構造の化合物が開発されている。除虫菊は、かつて蚊取り線香の原材料として使われていたが、現在ではほとんどが合成である。忌避性もあるため、開発途上国ではピレスロイド系殺虫剤を練り込んだ蚊帳を世界保健機関(WHO)が採用して、普及を目指している。また壁用塗料にも取り入れられている[20]。
-
有機リン系殺虫剤
- ピレスロイドと比較して相対的に毒性が高いため防除業者用として用いられている。DDVPは揮発性が高いためにビルの地下等、閉鎖空間での防除に利用される。
- DEET
-
忌避剤であり殺虫力はない。主に野外活動時に皮膚に塗ったり、特殊な加工により衣服などに染みこませて用いる。忌避剤は一部後継が開発されてはきているが、効力や実績がDEETに匹敵するものは今のところほとんどなく、一番多く用いられる。
- BT
-
土壌微生物Bacillus thuringiensis の islaelensis 株は蚊に対して殺虫効果を示すが、現在では価格が高く、利用できる場面も限られているため今後の応用が期待されている。
- DDT
- 環境や人体への影響が危惧されている薬剤である。デメリットを考慮してもなお、南アジアなどマラリアなどによる被害が遥かに大きい地域で限定的に用いられる。
代表的な駆除器具[編集]
かつて日本においては、ヨモギの葉、カヤの木、スギやマツの青葉などを火にくべて、燻した煙で蚊を追い払う蚊遣り火という風習が広く行われていた。また、こうした蚊を火によって追い払う道具は蚊遣り具、または蚊火とよばれ、全国的に使用されており、大正時代まではこれらの風習が残っていた。現代において蚊の駆除器具として一般的に使用されているものとしては、蚊取り線香がある。ただしその歴史自体は非常に新しいものであり、和歌山県出身の上山英一郎が線香に除虫菊の粉末を練りこんだものを1890年に開発したのがその始まりである。蚊取線香の防虫能力は高く、大正時代末には蚊遣り火や蚊遣り具にとってかわった。ただし蚊取線香も火を用いることには変わりなく、安全性を高め灰の処理を容易にするために蚊遣器と呼ばれる陶製の容器に入れて使用することも多かった。やがて1963年には防虫成分を電気によって揮発させ防虫効果を得る電気蚊取が開発され、煙や灰が出ないことなどから1970年代には普及し、従来の蚊取線香にとってかわった。また、同時期にはスプレー型の殺虫剤や防虫剤も開発され、これも蚊の対策として広く使用されるようになった。
上記のような蚊の駆除器具の代表的なメーカーとしては、上山英一郎の興した金鳥(大日本除虫菊)や、アース製薬、フマキラーなどがある。
生物学的な防除[編集]
天敵用法[編集]
蚊を食べる特別な動物を使う(天敵用法)ことでも駆除を行うことができる。トンボやクモはよく知られた蚊の捕食者であり、効果的に蚊の駆除を行う。トンボの幼虫のヤゴは水中で蚊の幼虫を食べ、成虫のトンボは成虫の蚊を食べる。昼行性の蚊、たとえばヒトスジシマカなどにとってトンボは有力な捕食者となりうる。自然保護地域でもメダカとカダヤシ(特定外来生物に指定)とウナギの稚魚等によって蚊の駆除が行われている。
ボウフラは淡水に住む肉食性の小型魚類にとって格好の餌となり、屋外の池などにはフナなどを生息させて捕食させる。
遺伝子組み換え蚊の利用[編集]
デング熱等への対応の必要性から、遺伝子を組み換えた蚊を自然界に放ってネッタイシマカを減らす対策も実施されている。これには環境への影響を指摘する声もある[21]。
感染病の利用[編集]
蚊を殺す伝染病を感染させることで駆除を行うことができる。
物理的な防除[編集]
物理的忌避[編集]
蚊の侵入を防ぎながら空気の通りを妨げない物として、窓に網戸、屋内で蚊帳がある。いずれも目が1mm程度の細かな網を蚊の侵入方向に張り巡らせて侵入を防ぐものであり、人間の寝所等の周りに吊るして防御するものが蚊帳、それを推し進めて窓に網を張り家全体への家の侵入を防ぐものが網戸である。この成り立ちからも推測できる通り、使用の歴史としては蚊帳の方がはるかに古く、古代から世界中で使用されていた。日本においても中国から伝来し、すでに江戸時代には一般庶民の日用品となっていた。その後、昭和時代後期に入りガラス窓とそれを乗せるサッシが普及して気密性が大幅に向上し、蚊の侵入する隙間が窓以外なくなったことから窓での蚊の防御に意味が生まれ、網戸が誕生して急速に普及した。現代においては網戸は、ほぼ日本中の家で採用されていると思われるが、蚊帳は現代の日本ではあまり用いられていない。ただし日本以外の国々、とくに熱帯地域の諸国においては蚊帳は現在でも非常によく使用される。蚊帳の使用は熱帯地域における伝染病の感染を減少させる有効な手段とされ、特に2000年頃に5年間ほど効果が持続する[22]ピレスロイド系の殺虫剤を練りこんだ蚊帳が開発されると、世界保健機関(WHO)や多くのNPOがこれを採用して無償配布や援助を行うようになった。
家の中に入ってしまった蚊を物理的に排除する方法としては、手でパチンと叩き殺すのが普通であり、ハエに対するハエたたきのような物は蚊には特に無かった。しかし最近は電気ショックで蚊をショック死させるラケット形状の器具が売られるようになった。なお当然であるが、蚊を捕るためなら虫捕り網が効果的である。家の中で使えるように柄を短くすると使いやすい。
殺虫剤によらない方法としては、誘蛾灯のような照明(紫外線)で蚊を含む虫を誘引し、高電圧による電気ショックを与えて駆除する電気捕虫機[23](電撃殺虫器とも[24])が使われる場合がある。空気清浄機と兼用の製品も開発・販売されている[25]。
物理的予防[編集]
ボウフラの孵化・羽化や生息場所となる「水たまり」を、可能な限り作らないことが重要である。
また、逆にバケツなどに水を張っておいて蚊に卵を産ませ、ボウフラになってから殺虫剤で殺し、蚊の繁殖行動を邪魔して蚊を減らす対策もある。ボウフラでいる期間は10日ほどなので、それ以内にボウフラを殺すのが肝心である。期間を過ぎて羽化してしまうとそこから数メートルが蚊の行動範囲な為、家の近くで行った場合は、却って蚊に大量に刺されてしまうので注意が必要となる。なお、殺虫剤でなく、バケツ表面を油で覆ってボウフラの呼吸を妨げたり、バケツの水を舗装道路や水たまりがない地面などに撒いて捨てたりしても良い。なお、近くに側溝や小川、池など水たまりがあると、そこで蚊になる可能性があるので、水が側溝などに行かないよう注意すべきである。この水面を油で覆う蚊の予防法はかつてパナマ運河建設の際に、マラリアに悩まされたアメリカ合衆国が取った手段のうちの一つである。湖や水たまりなどに油を流すことで蚊が激減し、その蚊の媒介していたマラリアや黄熱病の患者も激減したことで、パナマ運河は完成へと大きく前進することとなった[26]。なお、蚊は風速1m以上の風が吹く環境下では飛行できない。そのため扇風機等で常時その程度の風が吹く環境を作れば蚊は寄ってこない。落語の『二十四孝』のサゲはこの習性を加味したものとなっている。
また、蚊に卵を産ませる罠も売られている。蓋の付いたバケツ状の罠で、水に蚊が卵を産みボウフラになるが、成虫が出ていく出口がなく、蚊の繁殖行動が失敗に終わるというものである。同じような罠を、ペット・ボトルなどで作成することもできる。NHKで紹介された、タイで考案された物が簡単である[27]。
また、水面を揺らして波を作ることにより、ボウフラが生育できないようにし、これを何度か繰り返すことで、ほぼ死滅させる方法もある。[28]。水に銅ファイバー、繊維状のものを入れることで、9割が羽化せずに死滅するとの実験結果もある[29]。
また、東京ディズニーランドでは、特殊な「水」を使用することで、蚊が発生しないような工夫がなされている。[要出典]
蚊の生態系における役割[編集]
水の浄化[編集]
蚊の幼虫のボウフラは水中の有機物を分解し、バクテリアを食す。バクテリアも有機物を分解するが、排泄物で水を汚すため、バクテリアが増えすぎると水中の酸素が少なくなり生物が住めなくなってしまう場合がある。ボウフラはバクテリアを食べ、呼吸は空気中から行うことで、水環境を浄化する作用がある。
受粉の手助け[編集]
蚊は吸血だけでなく花の蜜を吸って生きており、結果として植物の受粉を手助けしている。蚊がいなくなると十分に受粉できない植物が出てくることとなる[30]。
下位分類[編集]
-
オオカ亜科 Toxorhynchitinae
-
ナミカ亜科 Culicinae
-
ナガハシカ属 Tripteroides
-
イエカ属 Culex
-
アカイエカ Culex (Culex) pipiens pallens Coquillett, 1898
-
チカイエカ Culex (Culex) pipiens molestus Forskal, 1775
-
ネッタイイエカ Culex (Culex) pipiens quinquefasciatus Say, 1823
-
コガタアカイエカ Culex (Culex) tritaeniorhynchus Giles, 1901
-
クロヤブカ属 Armigeres
-
オオクロヤブカ Armigeres (Armigeres) subalbatus (Coquillett, 1898)
-
ヤブカ属 Aedes
-
ネッタイシマカ Aedes (Stegomyia) aegypti (Linnaeus, 1762)
-
ヒトスジシマカ Aedes (Stegomyia) albopictus (Skuse, 1894)
-
チシマヤブカ Aedes (Ochlerotatus) punctor (Kirby, 1837)
-
トウゴウヤブカ Aedes (Finlaya) togoi (Theobald, 1907)
-
ヤマトヤブカ Aedes (Finlaya) japonicus japonicus (Theobald, 1901)
-
ハマダラカ亜科 Anophelinae
[
ヘルプ]
参考文献[編集]